藝大生がダム建設問題を考える。地域密着プロジェクトからみえてくる寄り添う力とは?

藝大生がダム建設問題を考える。地域密着プロジェクトからみえてくる寄り添う力とは?

テレビやネットで目にする地方のニュース、都心で暮らすみなさんにはどのように映っていますか?

メディアを通して知る社会問題は、現地住民のリアルな温度をなかなか感じ取れないことがあります。問題と運動家の対立を煽る文章や映像からは読み取れない、住民たちのさまざまな思いがあるのです。

その人々の複雑な思いに寄り添い、アートを通して社会を考えるアーティストユニットがいます。東京藝術大学の学生を中心に結成された、soiのてはじめです。彼らは現在、長崎県川棚町石木郷こうばる地区の「石木ダム問題」に取り組み、現地住民とかかわり合いながらアートを通した考えるきっかけ作りを行っています。

現地取材とリサーチを経て立ち上げたMAPプロジェクトでは、さまざまな立場に置かれた人々が抱えるそれぞれの思い、そしてその人に見えている風景の写真を合わせて地図上に位置づけ、「石木ダム問題」をめぐる複雑な状況をあらゆる構図に分類することなく、ありのまま可視化させることを目指しています。
<soiのてはじめ 公式HP>

石木ダム問題とは?

長崎県・川棚川の下流にある小さな支流、石木川にダムを作る建設計画の推進派と反対派が対立している問題のことです。

石木ダムの建設は、行政が治水対策と水源確保を目的とした計画です。しかし、建設費以外の関連費用もあわせてかかる費用の合計は538億円。そのうち、県の負担分を差し引いた約353億円は佐世保市民の税金があてられます。計画についてよくわかっていない人が多い状況で、本当に巨額の税金を投じて優先されるべき計画なのか。

また、ずっと昔から続いてきた人々の暮らしや美しく豊かな自然環境を壊してよいのかなど、さまざまな観点からの意見があります。

ダム建設の話が持ち上がってから約50年。地元住人を中心に2015年からはじまり、形を変えながら続いる裁判。2020年10月に国の事業認定取り消しを求めた訴訟で、最高裁が住民側の上告を退ける決定をし、敗訴となりました。それでも闘いは今も、続いています。
反対派による #いしきをかえよう プロジェクト
長崎県によるダムの必要性の説明

東京に住む若者が地方のダム問題に取り組むのはなぜ?

彼らが長崎県の石木ダム問題について考えるようになったきっかけの映画があります。アウトドアブランドのパタゴニアが作った映画「ほたるの川のまもりびと」です。

映画「ほたるの川のまもりびと」
soiのてはじめ
“ 映画から衝撃を受け、無自覚に何不自由なく東京で生きてきた私たちにも何かできることはないのかと思ったのが始まりです。

町の住民は約60年もの間、自分たちの土地を守り続けています。そんな彼らの姿を見て、都市に住む我々が忘れていた何かを感じました。そこでまず、その町の環境や人、問題に寄り添うことからはじめよう思いました。

変化していくことが常な現代において、”新しくできるもの”により”失われていくもの”があります。そのような現状から私たちのこれからの未来を考えるきっかけを作るために、「公共事業により失われようとしている街、これから」に焦点を当て、アートを通して考える場所を作ろうと考えました。

我々の知らない所で13世帯62人の土地が奪われるようとしています。人知れず、閉鎖的にこの問題が終結してしまう社会が当たり前であっていいのでしょうか。”

彼らが映画からとある小さな町の社会問題を知ったように、正面からでは広がりにくい訴えでも、手法を変えれば新たな層に届きます。さまざまな形でフックを用意することの意味を身をもって感じたからこそ、アート×社会問題に取り組んでいるのです。

現地滞在で得たリアルな感覚

彼らはプロジェクトに取り組むにあたり、数週間にわたる現地滞在(複数回)、現地の子ども向けにワークショップを開催するなど、さまざまな方法で現地の方々とのコミュニケーションを図ってきました。そこから見えてきた景色は、メディアから伝わってくる情報とは少し違っていたそうです。

soiのてはじめ
“ メディアや反対団体の人たちが、問題に向き合っている姿勢というのが、二項対立してしまっています。なんというか、当事者の人たちを無視しているわけではないけれども、やはり周りでどんどん大きくなっており、実際にリアルに話を聞かないままに問題が大きくなっていると感じていました。

現地の方とのコミュニケーションを通して、人が本当にそこにいて、本当にこのようなことが行われて、そこで本当に人が動いているというのを知れたことが大きかったです。映画やニュースだと文字と映像の情報だけでしかわからない、実感できない。

「あぁそうだね」というぐらいの感覚がどうしても残ってしまいますが、現地に行って接してこの人たちがその運動を起こしていると知れたのは大きかったと思いました。

メディアから伝わってくる運動家たちは、自分と遠く離れた無関係な人ではない。事実を目の当たりにしたことで、寄り添う意識が少し変わっていきました。”

お互いに理解できなくても「あ、ちょっと関われたかな」でつながる

この問題の外側の人から見えている「ダム建設に反対する人たち」は、現地で交流を重ねるうちに大きな枠組みで語れないのだと知ることになります。住民一人ひとりが多角的で複雑な想いを持っている。問題の当事者ではない人間が、当事者とかかわる難しさも体感したそうです。

亀倉
“ 私たちは外部の人間で、全く関係のない問題を扱うことで、本問題に関わる際にどのように思われるのか怖かったということがあります。しかし、活動していく中で徐々に地域の人たちが私たちの活動に理解とまではいかないけれど、協力してくれることがありました。

作品を作っている時に差し入れをくれたり、取材に協力してくださるようになったんです。その際に「あ、ちょっと関われたかな」という気持ちになれました。”
西尾
“ この問題の核にいる人たちだけでなく、さまざまな視点でこの問題を考えている人や関わっている人との交流が広がっていきました。外から来たものとしては、いろいろな角度で問題を見れたことがよかったというのもありつつ、なんて表現したらよいのか・・・今行なっている「MAPプロジェクト」をするきっかけにもなりました。

そもそもの基盤としての社会問題を私たちが見る、そういうものを見たり考えたりするという視点というのは、受け継がれてきた風習、自然との共存方法、コミュニティ、彼らが守ろうとしてきた物を知ることでもあります。

今後の未来を考える為の重要なケーススタディになったと思います。”
岩崎
” 長崎県での活動を通して、いろいろな地域のイベントに巻き込んでいただきました。そういうイベントに誘ってもらえるというのはやっぱり私たちも認めてもらえたのかな、みたいな喜びがありましたね。”

地方には、そこで暮らしている人にしかわからないコミュニティやルールがあります。それらは外部の人にとって決して異質なものではなく、長い年月をかけて人々がつないできた歴史であり、文化です。

簡単には言葉で説明できないものだから、都会で暮らす人々がすべてを理解できるはずがありません。それでも知ろうとする、人々の想いを感じる、その想いに寄り添う。これが私たちにできることなのではないでしょうか。

soiのてはじめアートは、いま私たちが直面している時代のさまざまな断面を作品に反映させ、私たちに多くの示唆を与え得る可能性を秘めています。我々はその機能を使いこうばる(石木ダムによって沈んでしまう地域)に想いを巡らす人びとを増やすため、アートプロジェクトを進めてきました。本プロジェクトを通じてこのダム問題から社会の未来を広く考えていくきっかけを作り、みんなの考えが反映された持続可能な社会をつくるきっかけになればと考えています。”
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