地方移住で人間関係、どうつくる? 城里町で林業を教える学長が、大切にしてきた縁。

地方移住で人間関係、どうつくる? 城里町で林業を教える学長が、大切にしてきた縁。

地方に移住したい、自然に触れたい人が、コロナ禍で増えている。一方はじめて住む地方で人間関係を築き、働くハードルは高い。新しい土地の人たちと関わっていく上で、気をつけることは? 東茨城郡城里町で林業の現状を考えながら、地方で生活するための技術を伝える、一般社団法人Forester’s Living代表の井出光弘さんに、地域の人と接する心がまえを伺いました。

  • この記事のまとめ
    • 若者を中心に、地方移住したい人が増えている。一方で新しい場所での仕事、人間関係などへの不安が大きい。
    • 井出さんは震災をきっかけに農業をはじめ、森の土に目がいったことから、林業に関心を持った。
    • 「木を形あるものに残すことは、自分の力でできる」と伝えるため、城里町でいきあう学校をはじめた。
    • 人間関係で井出さんが意識しているのは、どんな人でも垣根をつくらず接して、縁を大切にすること。
    • 「やってみたい」と感じたタイミングで、チャレンジできる環境がある。まずは自分をオープンにして、人と接してみよう。

新しい場所、はじめての人。どう接したらいいですか?

コロナ禍で変化する価値観のひとつとして、地方へ移住したい、自然と触れあいたいと考える人が増えています。

とくに若者の関心は高まっているようで、2020年5月以降、地方移住に関心がある東京圏の20代で、移住に向けて行動をとった人は37.9%いるそうです。

一方で仕事や収入について(46.2%)、人間関係や地域コミュニティについて(24.6%)など、新しい環境での生活に対する懸念点も見られています
<参考:内閣府/第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査>

新しい場所と、はじめての人たち。どんな心がまえで接したらいいのでしょうか? 城里町で林業やDIYが学べる「いきあう学校」を運営する、一般社団法人Forester’s Living代表理事の井出光弘さんに、お話を伺います。

きっかけは震災と、目指すべき土になっていない森。

まずは井出さんが現在向きあっている課題と、解決に向けて行なっていることをお聞きしました。井出さんが林業に関心を持ったきっかけは、東日本大震災。最初は農業に目を向けていたといいます

井出:東日本大震災が起こってから「今はお金を必要なものと交換して生活している。けれどもし交換してもらえなくなったら、お金はただの紙切れになって、生活できなくなっていくんじゃないか」と考えるようになったんです。

震災後は「今まで通りの生活を続けられるんだろうか」という不安から、生活を見直す人が多かったと感じます。コロナ禍にある現在も、同じような不安から価値観の変化が現れていて、それが地方移住への需要にも結びついているのかもしれません

井出:安心して生活するために、食べるものを自分でつくりたい。2人の子どもを育てるためにも、そう思ったんです。

そこではじめたのが、農薬や肥料、除草剤を使わない自然栽培でした。

井出:自然栽培が目指しているのは、森の土。だけど、森に目をやったとき「目指すべき土になっていないな」と気づいて、このままではダメだと思ったんです。

せっかくの木を、形あるものにして残したい。

森林資源の約40%は、おもに木材の生産を目的とした人工林。その中で、約98%が針葉樹林です。
<参考:林野庁/森林・林業統計要覧2020 1 国民経済及び森林資源>

針葉樹の多くは、ずっと葉をつけている常緑樹。手入れがされないと地面に光が届かず、実のなる作物も育たず、動物たちの生息しにくい森になってしまいます。そこでちょうどよい光が入るよう、間伐が必要になります。井出さんがやっているのが、「本来の森にする作業」。間伐や植林など森の手入れを行い、そこで出た木材を家具や小屋、モバイルカーなどにつくりかえています。

間伐の様子
井出:切った木についても、現在では間伐材を、バイオマス発電の燃料にする場合が多いんです。けれど木が吸収してくれた二酸化炭素を、燃やすことで放出してしまうのって、なんか違うんじゃないかとせっかくの木を、形があるものにして残したい。それも「自分でできるんだよ」って教えたくて、いきあう学校ができました。

理想は、継続できる形で自然を循環させていく、エネルギーも持続可能な形になること。お話を聞いていく中で、林業や自然に対して「こうしていきたい」と日々考えているのだと、強く感じました。そんな思いに賛同して、協力者や技術を教わりたい人が、井出さんの周囲に集まっています

「地域の人だから」という垣根はつくらない

新しい環境でなにかをはじめようとするとき、不安になるのが人間関係。

農業や林業といった、ひとりでできないものを進めている井出さん。クラウドファンディングで「いきあう学校」のプロジェクトを進めていたときは、みんな「井出さんがやるなら」と応援してくれたといいます。林業や農業を進める中で、地域の人とは、どんなことを心がけて接していますか?

井出:「地域の人だから」というよりは、どんな人との縁も大切にしてきました。そんな中で、人と人が共鳴しあって、つながっていったと感じています。

以前は会社員をしていた井出さん。病気がきっかけとなり「会社員は歯車のひとつで、直接喜ばれることはない」「どうせ生きるんだったら、人に喜ばれるような仕事がしたい」と考えたのだそうです。

井出:城里町に引っ越して、なにも知らないところから、車屋をはじめたんです。そのころから「数ある中から自分を選んでくれた人へ、それだけのことを返せるように」という思いで、人と接してきました。震災をきっかけに農業をはじめてからも、その中でいろいろな人とのつながりができました。

クラウドファンディングのリターンなども、たくさんの人とコラボしてつくったものです。とにかく自分ができることを精いっぱいやって、人に喜ばれるよう心がけていますね。

「まるきりわからない場所に突っ込んでいくハードルは、高いですよね」という井出さん。そこで「移住してきて不安な人が、つながっていく場所になってほしい」と考えているのが、いきあう学校です

「やってみたい」と感じたタイミングで迎えられる場所に

東茨城郡の城里町にあるいきあう学校は、「林業に挑戦したい」「木材を使ったものづくりがしたい」という人に、技術を伝える場所です。自然の循環や地域課題を意識しながら、副業・本業に使える技術がある人の育成を目指しています。

開校は4月18日、取材時には2回目の講座が開かれたところだったそう。現在はおもに初心者向けの講座で、チェンソーの選び方、使い方やメンテナンスについて教えています。同時に「木も生き物だから、気を入れて接していかないと危ない」とも話しているそうです。参加する人たちは、どんなきっかけでいきあう学校を知るのでしょうか?

井出:イベントで知ってもらいます。チラシやチェンソーを持っていくのですが、直接話をしてくれた人が参加してくれています。やはり賛同してくれる人が集まるんじゃないかな、と思いました

参加者は「薪づくりをしていて、チェンソーが使えるようになりたい」「自分の持っている森を材料として使いたい」という人もいれば、「チェンソーが使えたらかっこいい」とあこがれて来る人もいるそうです。

井出:みなさん「わからないこと(チェンソーの使い方など)が、わかるようになった」と、満足して帰っていきますよ。
チェンソー講習の様子

最後に用意していた質問は、「これから、どんな人たちと仕事をしたいですか?」。しかしお話を聞いていると、井出さんからは「来るもの拒まず」の姿勢が感じられます。

井出:そうですね、それが縁だと思うので。垣根はつくらず、その人が「やってみたい」と感じたタイミングでチャレンジができるよう、迎えていきたいです。地方の人、地域の人って案外あったかいんですよ。ぜひ垣根をつくらず、自分からオープンになってもらいたいと思います。これからも同志がつながる、「いきあう場所」をつくっていきたいです。

「いきあう」とは、茨城弁で不意に人と出会うこと。さらに「人と人が行き交い、生きあう場所」という意味が、いきあう学校には込められています

やってみたいというタイミング、人との縁を大切にする井出さん。お話を通して、新しい環境であっても思い込みで垣根をつくりすぎず、目の前にいる人と接していくことが大切なのだと感じました。

地方や自然の中でやってみたいことが見つかったら、まずは人とつながれる場所を探してみませんか?

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